[2022年度造園学会全国大会MF]実践から読み解く風景計画の理論

■目的

 2021年度全国大会企画フォーラム「これからの風景 多様な体験や価値付けの共有」では、コロナ禍で風景リテラシーや価値観が変化する中で、風景計画研究分野での新たなパラダイムを検討するために、風景計画研究の統合的研究のアプローチについて議論が深まった。そこで、2022年度の風景計画研究推進委員会のミニフォーラムでは、学問領域で蓄積されてきた風景計画の概念、理論、計画論を、社会変化に適応する風景計画としてだれもが実践できるように、風景計画や風景づくりの実践例から風景計画の理論、読み解きを再考する。具体的には現場のケーススタディから、そのフィールドにおける風景の課題を解決するために実践した、目標像の設定および共有手法や操作手法等を発表者が紹介し、実践から風景計画の理論との関係性を考察する。本フォーラムにより人と空間及び人と人の新たな関係性の構築について議論を深める。

趣旨説明
  伊藤弘(筑波大学芸術系世界遺産専攻)

事例1:国立公園の風景のストーリー化と公園計画へのフィードバック
    岡野隆宏(環境省自然環境局国立公園課国立公園利用推進室)

事例2:修験道の山の風景計画-出羽三山の事例-
   上田裕文(北海道大学観光学高等研究センター)

事例3:図と地からみる阿蘇の草原保全計画
    町田怜子(東京農業大学)

事例4:風景認識モデルにおける「情報」に着眼した風景評価の実践
    高瀬唯(茨城大学)

総合討論
 コメンテーター
  伊藤 弘 筑波大学芸術系世界遺産専攻
  松島 肇 北海道大学大学院農学研究院
  上田 裕文 北海道大学観光学高等研究センター
  温井 亨 東北公益文科大学
  入江 彰昭 東京農業大学地域環境科学部
  小島 周作 株式会社メッツ研究所
  小林 昭裕 専修大学経済学部
  高山 範理 (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所
  田中 伸彦 東海大学観光学部
  高瀬 唯 茨城大学農学部
  武田重昭 大阪府立大学大学院生命環境科学研究科
  寺田 徹 東京大学大学院新領域創成科学研究科
  古谷 勝則 千葉大学大学院園芸学研究科
  松井 孝子 株式会社プレック研究所
  水内 佑輔 東京大学大学院農学生命科学研究科
  山本 清龍 東京大学大学院農学生命科学研究科
  上原 三知 信州大学学術研究院農学系
  村上 修一 滋賀県立大学環境科学部
  渡邊 貴史 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科
  町田 怜子 東京農業大学地域環境科学部

[2021年度造園学会全国大会MF]これからの風景 多様な体験や価値付けの共有

■趣  旨
 コロナ禍において、生活、人と人のコミュニケーションは大きく変わり、その結果、私達を取り巻く風景は大きく変化した。2020年度全国大会企画フォーラム「風景の変化の兆し 身近な空間とそこへの関わり方の未来」では、Withコロナで目の前にある空間とそこへの人々の関わり方の変化の兆し、それらにより新たに生成されつつある風景を捉えた、まなざしから、共時・通時的に多くの風景・風景体験が存在し,その蓄積された記録を踏まえた学術研究が多く報告された。さらに、風景計画分野で「何を(目的)」とともに「どのように(プロセス)」実現するかを重んじた計画に関わる行為を続けることの重要性が議論された。そこで、2021年度の企画フォーラムでは、変化に適応する風景計画の方法論を構築するため、人と空間及び人と人の新たな関係性の構築、あるいは将来の多様な体験や価値付けの共有を可能にする風景について議論を深める。

■内  容
 ・発表タイトルと発表者
  「風景の新しい見方を探る-実践例の紹介」
   滋賀県立大学 環境科学部 環境建築デザイン学科 村上修一
  「里山保全型のグリーンインフラの共創と共有
   -長野県伊那市上牧における民有林のフットパス化-」
   信州大学 農学部 農学生命科学科 上原 三知
  「情景と光景ーコロナ禍で考える風景の価値」
   大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 武田重昭
  「新たな社会的パラダイムにおける風景の止揚と再獲得 」
   国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 高山 範理
 ・コメンテータ
  伊藤 弘   筑波大学芸術系世界遺産専攻 
  入江 彰昭  東京農業大学地域環境科学部
  上原 三知  信州大学学術研究院農学系
  上田 裕文 北海道大学メディア・コミュニケーション研究院
  高瀬 唯  茨城大学農学部
  田中 伸彦 東海大学観光学部
  寺田 徹  東京大学大学院新領域創成科学研究科
  温井 亨  東北公益文科大学
  古谷 勝則 千葉大学大学院園芸学研究院
  松井 孝子 株式会社プレック研究所
  松島 肇  北海道大学大学院農学研究院
  水内 佑輔 東京大学大学院農学生命科学研究科
  山本 清龍 東京大学大学院農学生命科学研究科
  渡邊 貴史 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科
  小島 周作 東京農業大学大学院農学研究科
  町田 怜子 東京農業大学地域環境科学部

■資  料
 資料1 風景の新しい見方を探る-実践例の紹介
 資料2 里山保全型のグリーンインフラの共創と共有
 資料3 情景と光景ーコロナ禍で考える風景の価値
 資料4 新たな社会的パラダイムにおける風景の止揚と再獲得

第1回 風景計画研究・事例報告会

基調講演

風景計画を俯瞰する

下村彰男 東京大学大学院農学生命研究科

風景・景観研究の展開を整理したうえで、風景・景観認識を考えると、情報と実像によって構成される風景に対して、かつては実像が中心であった。しかし近年では、情報の比重が高まってきている。風景は、身体的に特定の主体が先駆的に捉えてきたものが、コミュニティで共有され発信されて、時代を象徴する風景として社会的に獲得されてきた。そうした獲得の仕方も、実像が中心であった頃は視点と視対象の関係から獲得されていたが、近年では「特価情報」と「形成情報」が付与されて獲得されるようになってきている。今後、求められるのは風景を読み解く能力である「ランドスケープリテラシー」を磨くことと、獲得された風景を誰がどう管理していくのかという方法論の構築が課題である。

研究事例報告

「農業農村整備事業における景観配慮技術指針検討」における景観配慮の方向性をめぐり

小林昭裕 専修大学経済学部

農村景観に対する農水省の取り組みとして現在、「農村における景観配慮の技術マニュアル」に基づいた農業農村事業における景観配慮技術指針が検討されている。その中で、景観配慮の方向性として「除去・遮蔽」「修景・美化」「保全」「創造」の4原則が示されており、技術職員向けに優良事例が選出されている。しかし、地域のどういったコンテクストに着目して配慮すべきか、といった読み解き方については示されておらず、混乱をきたす恐れもある。そもそも全ての地域・事例に対して上記4原則に基づけばいいかどうかも、コンテクストの読み解きと関連付けて検討すべきではないか。

阿蘇くじゅう国立公園の変遷と阿蘇の震災復興に向けたランドスケープの役割

町田怜子 東京農業大学環境科学部造園科学科

阿蘇くじゅう国立公園は、畜産業の衰退と大規模な観光化という経験を経て、現在は草原景観保全と再生に向けて多様な主体が活動を展開している。熊本大地震による震災からの復興に向けて、①先人たちの暮らしを守る知恵や土地利用の工夫等の読み解きとその土地利用計画への反映、②草原や森林が有する生態系レジリエンスに関する実証データの収集と、二次草原や森林環境に関する景観マネジメントの構築、③草原景観の保全と再生に向けた取り組みを活かした地域防災力の向上、④地区内の観光計画策定と観光ツール開発およびその発信、⑤子供たちの草原学習による地域コミュニティの結束、が挙げられる。

リバプール市のグリーンインフラ戦略にみるニーズ特定方法と日本での応用に向けた試案

橋本慧 プレック研究所

英国リバプール市のグリーンインフラストラクチャー(GI)戦略において、GIに関する28種類のニーズは、小地域ごとの各種統計情報や土地利用などの数値的指標から特定されている。これらのニーズはGIの分布図上にが示され、設定された基準値との小地域ごとの比較から、行政による土地利用に関する介入や指導が行われている。日本においても各種統計情報のマップ化により、ニーズを特定することは可能である。ニーズは一律に決定するのではなく地域の実情に合わせて決定すべきである。その際、複数あるニーズの中でどれを優先させるかの判断基準の設定手法は課題といえる。

千葉県旭市の津波防災地を対象とした現地復興の実態に関する研究

荒木笙子 千葉大学大学院園芸学研究科

千葉県旭市・都市計画区域外の津波被災エリアにおいては、被災直後に土地利用規制が行われなかったため現地再建が進み、その後の復興計画で事後的に現地再建を容認していった。住民たちの被災による内陸等他地域への移動は殆ど見られず、多くが住み慣れた同一敷地や地区内に留まっていた。復興住宅が内陸側に建設されたこと、土地利用に関する具体的な方針が示されなかったことなどから、現地再建した住民と被災しなかった住民を含めた地域全体のコミュニティの維持・再生が困難になることが懸念される。熊本大地震においても、既存の都市形態を踏まえつつ安全安心な新たな生活空間の検討が必要であろう。

エコロジカルプランニングと国土庁の環境調査データを用いた東日本大震災の復興計画への参画

上原三知 信州大学農学部森林科学科

1980年に東北地方6県を対象に整備された1/50万スケールの環境条件図は日本独自のものであり、条件区分ごとに災害リスクや公益的機能の評価ランク得点表が整備されている。東日本大震災の被災地のうち数少ない成功モデルといえる福島県新地町において、前述の環境条件図を用いた1969年Ian McHargによって提唱されたエコロジカル・プランニング手法による評価結果と、住民や関係する専門家の丁寧な協議によって策定された復興計画による住宅移転地を比較すると、ほぼ同等の結果を導くことができた。前述の情報・評価及び手法は評価されるべきであり、改めてその活用は検討されるべきであろう。

コメンテーターからの意見