風景計画は農村の持続的発展にどう寄与できるか?


日時:2024年6月 16 日(日)14:55~16:25

場所:名城大学天白キャンパス共通講義棟北 N102号室

目 的:風景計画の分野では,農村資源をデジタルデータ化して計測したり,史資料を用いた農村の社会構造の読み解きなど,農村ランドスケープの保全に向けた研究が行われてきた。農村ランドスケープは,第一次産業を基盤に成立し,農地,森林,水域等の二次的自然環境が保全・維持されることで独自の生態系を成立させてきたが,第一次産業の担い手や伝統文化の継承者が不足しており,農村ランドスケープは喪失危機にある。一方で,農村空間がレクリエーション・観光・鑑賞の対象となったり,都市住民が農村に移住するなど,農村の構成員が変化する傾向もみられ,第一次産業を基盤に成立してきた農村ランドスケープは,その構成要素も含めて過渡期にあると言える。そこで,本フォーラムでは,農村ランドスケープに関わる研究をされてきた方々からこれまでのご活動を紹介いただき,それを踏まえて,風景計画の研究が農村の持続可能な発展にどのように寄与できるのかを討議したい。

趣旨説明(14:55-15:00) 
矢澤優理子(東京大学)/風景計画研究推進委員会


報告とコメント(15:00-16:05)
報告1(15:00-15:20) 栗田英治(農研機構)
農村ランドスケープの可視化を通じて 人と農林地との関係を読み解く

報告2(15:20-15:40) 高橋俊守(宇都宮大学)
里山または山に関する人間の内面的なランドスケープ特性に関する考察
 
報告3(15:40-16:00) 真田純子(東京工業大学)
農村のランドスケープを考える 風景をつくるごはんの実践と研究から


討議(16:05-16:25)
閉会(16:25)

■企画詳細

1.農村ランドスケープをめぐる背景

・農村ランドスケープは、第一次産業を基盤に成立してきた。
・人口減少により、第一次産業の担い手や、ランドスケープおよびその構成要素である農業土木施設の保全・管理者、有形/無形の文化・慣習等に関わる伝統知の継承者が不足している。
・農村における農地、森林、水域等の二次的自然環境は、農村における人間の営みによって保全・維持され、独自の生態系を成立させてきたため、上記のような変化は農村生態系の喪失にも直結するものである。
・農村ランドスケープの保全や維持管理に関しては、農村景観計画の策定主体が不確定であったり、風景や生態系の保全、ソフトの継承、ハード整備等はパワーのある地元住民(自治体)に任せがちになっており、持続可能性の点で課題がある。
・一方で、農村空間がレクリエーション・観光・鑑賞の対象となったり、都市住民が農村に移住するなど、農村の構成員が変化する傾向がみられる。
  cf.特に、2019年以降、新型コロナウイルス流行下においては、若年層の都市近郊農村への移住が増加した。
  cf.このように、農村空間における農産物の生産空間としての特徴が低下し、空間そのものが消費される対象となっている現象を「農村空間の商品化(commodification of rural space)」という。→https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj/86/1/86_1/_article/-char/ja/
・このような社会状況下において、第一次産業を基盤に成立してきた農村ランドスケープは、その構成要素のあり方も含めて過渡期にあると言える。

2. 風景計画における農村ランドスケープの研究と本ミニフォーラムの趣旨

 風景計画の分野では、農村という空間を様々な観点から「具体化」して見えやすくする研究が行われてきた。特に、農村ランドスケープの構成要素をデータ化して可視化したり(Visualization)、農村ランドスケープの構成要素の立地やその読み解きをマッピングして解釈したり(Interpretation)、農村ランドスケープの成立過程のなかで、その遠因になってきた都市の社会経済も踏まえた伝統的農林業システムの保全手法の検討(Practice)によって、上記1のような農村ランドスケープの変化を時系列で示す研究や、第一次産業に基づく従来の農村および農村ランドスケープの保全に向けた研究が行われてきた。

 このフォーラムにおいて、農村および農村ランドスケープを「具体化」して見えやすくする3軸(;Visualization, Interpritation, Practice)のそれぞれの研究・活動をされてきた研究者の方々からこれまでの研究・活動をご紹介いただくとともに、風景計画を専攻する若手研究者の方からもご自身の研究と関連するコメントをいただき、それぞれのご報告を踏まえて、風景計画の研究が農村の持続可能な発展にどのように寄与できるのかを討議したい。

4.討議

3者の研究・活動に共通して、「ランドスケープは不変のものではなく、変わっていくものではあるけれど、第一次産業を基盤とした従来型の農村ランドスケープを(全体として/部分的にでも)保全することが、農村の持続可能な発展につながる」という考え方がある。

→そこで、ご報告いただいた研究・活動の内容を踏まえ、

  (1)これまでに風景計画の分野で行われてきた「農村ランドスケープの具体化」に関わる研究が、農村の持続可能な発展にどう寄与できるのか。

  (2)わたしたち研究者や学生・市民が、(よそものとして)どのように農村に関われるのか

について、農村ランドスケープが地元の生業(生産活動)だけではなく、農地や農業を消費の対象として見てきた都市のまなざしも反映して成立してきたことを加味しながら、農村ランドスケープの保全という観点でご議論いただきたい。

[2023年度造園学会全国大会MF] 風景計画の実践-人と空間とDX

2023 年6月 18 日(日)13:25~14:55

■風景計画の実践-人と空間と DX

目的:風景計画研究推進委員会では風景リテラシーや価値観が変化する中での,風景計画分野での新たなパラダイムの検討を進めている。加えて,「DX」という言葉に代表されるように,空間情報技術やビッグデータ,AI など新たな技術の台頭が著しく,これまでできなかった計測や評価が実現可能ともなっている。風景計画の技法は 21 世紀初頭に一定程度の体系化を見たが,必然的に新たなツールを風景計画「学」として組み込み,「術」としてどのように実践していくかといった風景計画学の将来や可能性に関わる議論も必要である。
そこで本ミニフォーラムでは,DX を用いた風景計画に関わる実践を事例的に紹介し,また過去の学問領域で蓄積されてきた風景計画の計画論のレビューを行う。そのうえで,DX をふまえて人と空間の関係をどのように紡いでいくのか,今後の風景計画や風景づくりの実践についての議論を行う。学生や実務者の議論への参加を歓迎し,風景計画分野の紐帯となる場になることを期待する。

主な参加者と役割:

ミニフォーラム趣旨説明:伊藤弘・水内佑輔
DX 事例 1:日置佳之(鳥取大学農学部)
・DX 事例 2:一言太郎(ニューラルグループ株式会社)
・景観評価技術の歴史的展開:斎藤馨(東京農業大学地域環境科学部)


コメンテーター
伊藤 弘   筑波大学芸術系
松島 肇   北海道大学大学院農学研究院
上田 裕文  北海道大学メディア・コミュニケーション研究院
温井 亨   東北公益文科大学
入江 彰昭  東京農業大学地域環境科学部
町田 怜子  東京農業大学地域環境科学部
小島 周作  メッツ研究所
小林 昭裕  専修大学経済学部
小田 龍聖  (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所
高山 範理  (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所
田中 伸彦  東海大学観光学部
高瀬 唯   茨城大学農学部
武田 重昭  大阪公立大学大学院農学研究科
寺田 徹   東京大学大学院新領域創成科学研究科
矢澤 優理子 東京大学空間情報科学センター
古谷 勝則  千葉大学大学院園芸学研究院
松井 孝子  株式会社プレック研究所
橋本 慧   株式会社プレック研究所
山本 清龍  東京大学大学院農学生命科学研究科
上原 三知  信州大学学術研究院農学系
水内 佑輔  東京大学大学院農学生命科学研究科
村上 修一  滋賀県立大学環境科学部
渡邊 貴史  長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科
渡部 陽介  清水建設技術研究所
連携する団体:日本造園学会風景計画研究推進委員会

[2022年度造園学会全国大会MF]実践から読み解く風景計画の理論

■目的

 2021年度全国大会企画フォーラム「これからの風景 多様な体験や価値付けの共有」では、コロナ禍で風景リテラシーや価値観が変化する中で、風景計画研究分野での新たなパラダイムを検討するために、風景計画研究の統合的研究のアプローチについて議論が深まった。そこで、2022年度の風景計画研究推進委員会のミニフォーラムでは、学問領域で蓄積されてきた風景計画の概念、理論、計画論を、社会変化に適応する風景計画としてだれもが実践できるように、風景計画や風景づくりの実践例から風景計画の理論、読み解きを再考する。具体的には現場のケーススタディから、そのフィールドにおける風景の課題を解決するために実践した、目標像の設定および共有手法や操作手法等を発表者が紹介し、実践から風景計画の理論との関係性を考察する。本フォーラムにより人と空間及び人と人の新たな関係性の構築について議論を深める。

趣旨説明
  伊藤弘(筑波大学芸術系世界遺産専攻)

事例1:国立公園の風景のストーリー化と公園計画へのフィードバック
    岡野隆宏(環境省自然環境局国立公園課国立公園利用推進室)

事例2:修験道の山の風景計画-出羽三山の事例-
   上田裕文(北海道大学観光学高等研究センター)

事例3:図と地からみる阿蘇の草原保全計画
    町田怜子(東京農業大学)

事例4:風景認識モデルにおける「情報」に着眼した風景評価の実践
    高瀬唯(茨城大学)

総合討論
 コメンテーター
  伊藤 弘 筑波大学芸術系世界遺産専攻
  松島 肇 北海道大学大学院農学研究院
  上田 裕文 北海道大学観光学高等研究センター
  温井 亨 東北公益文科大学
  入江 彰昭 東京農業大学地域環境科学部
  小島 周作 株式会社メッツ研究所
  小林 昭裕 専修大学経済学部
  高山 範理 (国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所
  田中 伸彦 東海大学観光学部
  高瀬 唯 茨城大学農学部
  武田重昭 大阪府立大学大学院生命環境科学研究科
  寺田 徹 東京大学大学院新領域創成科学研究科
  古谷 勝則 千葉大学大学院園芸学研究科
  松井 孝子 株式会社プレック研究所
  水内 佑輔 東京大学大学院農学生命科学研究科
  山本 清龍 東京大学大学院農学生命科学研究科
  上原 三知 信州大学学術研究院農学系
  村上 修一 滋賀県立大学環境科学部
  渡邊 貴史 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科
  町田 怜子 東京農業大学地域環境科学部

[2021年度造園学会全国大会MF]これからの風景 多様な体験や価値付けの共有

■趣  旨
 コロナ禍において、生活、人と人のコミュニケーションは大きく変わり、その結果、私達を取り巻く風景は大きく変化した。2020年度全国大会企画フォーラム「風景の変化の兆し 身近な空間とそこへの関わり方の未来」では、Withコロナで目の前にある空間とそこへの人々の関わり方の変化の兆し、それらにより新たに生成されつつある風景を捉えた、まなざしから、共時・通時的に多くの風景・風景体験が存在し,その蓄積された記録を踏まえた学術研究が多く報告された。さらに、風景計画分野で「何を(目的)」とともに「どのように(プロセス)」実現するかを重んじた計画に関わる行為を続けることの重要性が議論された。そこで、2021年度の企画フォーラムでは、変化に適応する風景計画の方法論を構築するため、人と空間及び人と人の新たな関係性の構築、あるいは将来の多様な体験や価値付けの共有を可能にする風景について議論を深める。

■内  容
 ・発表タイトルと発表者
  「風景の新しい見方を探る-実践例の紹介」
   滋賀県立大学 環境科学部 環境建築デザイン学科 村上修一
  「里山保全型のグリーンインフラの共創と共有
   -長野県伊那市上牧における民有林のフットパス化-」
   信州大学 農学部 農学生命科学科 上原 三知
  「情景と光景ーコロナ禍で考える風景の価値」
   大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 武田重昭
  「新たな社会的パラダイムにおける風景の止揚と再獲得 」
   国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 高山 範理
 ・コメンテータ
  伊藤 弘   筑波大学芸術系世界遺産専攻 
  入江 彰昭  東京農業大学地域環境科学部
  上原 三知  信州大学学術研究院農学系
  上田 裕文 北海道大学メディア・コミュニケーション研究院
  高瀬 唯  茨城大学農学部
  田中 伸彦 東海大学観光学部
  寺田 徹  東京大学大学院新領域創成科学研究科
  温井 亨  東北公益文科大学
  古谷 勝則 千葉大学大学院園芸学研究院
  松井 孝子 株式会社プレック研究所
  松島 肇  北海道大学大学院農学研究院
  水内 佑輔 東京大学大学院農学生命科学研究科
  山本 清龍 東京大学大学院農学生命科学研究科
  渡邊 貴史 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科
  小島 周作 東京農業大学大学院農学研究科
  町田 怜子 東京農業大学地域環境科学部

■資  料
 資料1 風景の新しい見方を探る-実践例の紹介
 資料2 里山保全型のグリーンインフラの共創と共有
 資料3 情景と光景ーコロナ禍で考える風景の価値
 資料4 新たな社会的パラダイムにおける風景の止揚と再獲得

第1回 風景計画研究・事例報告会

基調講演

風景計画を俯瞰する

下村彰男 東京大学大学院農学生命研究科

風景・景観研究の展開を整理したうえで、風景・景観認識を考えると、情報と実像によって構成される風景に対して、かつては実像が中心であった。しかし近年では、情報の比重が高まってきている。風景は、身体的に特定の主体が先駆的に捉えてきたものが、コミュニティで共有され発信されて、時代を象徴する風景として社会的に獲得されてきた。そうした獲得の仕方も、実像が中心であった頃は視点と視対象の関係から獲得されていたが、近年では「特価情報」と「形成情報」が付与されて獲得されるようになってきている。今後、求められるのは風景を読み解く能力である「ランドスケープリテラシー」を磨くことと、獲得された風景を誰がどう管理していくのかという方法論の構築が課題である。

研究事例報告

「農業農村整備事業における景観配慮技術指針検討」における景観配慮の方向性をめぐり

小林昭裕 専修大学経済学部

農村景観に対する農水省の取り組みとして現在、「農村における景観配慮の技術マニュアル」に基づいた農業農村事業における景観配慮技術指針が検討されている。その中で、景観配慮の方向性として「除去・遮蔽」「修景・美化」「保全」「創造」の4原則が示されており、技術職員向けに優良事例が選出されている。しかし、地域のどういったコンテクストに着目して配慮すべきか、といった読み解き方については示されておらず、混乱をきたす恐れもある。そもそも全ての地域・事例に対して上記4原則に基づけばいいかどうかも、コンテクストの読み解きと関連付けて検討すべきではないか。

阿蘇くじゅう国立公園の変遷と阿蘇の震災復興に向けたランドスケープの役割

町田怜子 東京農業大学環境科学部造園科学科

阿蘇くじゅう国立公園は、畜産業の衰退と大規模な観光化という経験を経て、現在は草原景観保全と再生に向けて多様な主体が活動を展開している。熊本大地震による震災からの復興に向けて、①先人たちの暮らしを守る知恵や土地利用の工夫等の読み解きとその土地利用計画への反映、②草原や森林が有する生態系レジリエンスに関する実証データの収集と、二次草原や森林環境に関する景観マネジメントの構築、③草原景観の保全と再生に向けた取り組みを活かした地域防災力の向上、④地区内の観光計画策定と観光ツール開発およびその発信、⑤子供たちの草原学習による地域コミュニティの結束、が挙げられる。

リバプール市のグリーンインフラ戦略にみるニーズ特定方法と日本での応用に向けた試案

橋本慧 プレック研究所

英国リバプール市のグリーンインフラストラクチャー(GI)戦略において、GIに関する28種類のニーズは、小地域ごとの各種統計情報や土地利用などの数値的指標から特定されている。これらのニーズはGIの分布図上にが示され、設定された基準値との小地域ごとの比較から、行政による土地利用に関する介入や指導が行われている。日本においても各種統計情報のマップ化により、ニーズを特定することは可能である。ニーズは一律に決定するのではなく地域の実情に合わせて決定すべきである。その際、複数あるニーズの中でどれを優先させるかの判断基準の設定手法は課題といえる。

千葉県旭市の津波防災地を対象とした現地復興の実態に関する研究

荒木笙子 千葉大学大学院園芸学研究科

千葉県旭市・都市計画区域外の津波被災エリアにおいては、被災直後に土地利用規制が行われなかったため現地再建が進み、その後の復興計画で事後的に現地再建を容認していった。住民たちの被災による内陸等他地域への移動は殆ど見られず、多くが住み慣れた同一敷地や地区内に留まっていた。復興住宅が内陸側に建設されたこと、土地利用に関する具体的な方針が示されなかったことなどから、現地再建した住民と被災しなかった住民を含めた地域全体のコミュニティの維持・再生が困難になることが懸念される。熊本大地震においても、既存の都市形態を踏まえつつ安全安心な新たな生活空間の検討が必要であろう。

エコロジカルプランニングと国土庁の環境調査データを用いた東日本大震災の復興計画への参画

上原三知 信州大学農学部森林科学科

1980年に東北地方6県を対象に整備された1/50万スケールの環境条件図は日本独自のものであり、条件区分ごとに災害リスクや公益的機能の評価ランク得点表が整備されている。東日本大震災の被災地のうち数少ない成功モデルといえる福島県新地町において、前述の環境条件図を用いた1969年Ian McHargによって提唱されたエコロジカル・プランニング手法による評価結果と、住民や関係する専門家の丁寧な協議によって策定された復興計画による住宅移転地を比較すると、ほぼ同等の結果を導くことができた。前述の情報・評価及び手法は評価されるべきであり、改めてその活用は検討されるべきであろう。

コメンテーターからの意見