日本造園学会全国大会ミニフォーラム「生活と風景 風景・文化・信仰のダイアグラム」

2019 年5月26 日(日)16:40~18:10

当日スライド

【討論するテーマと目的】

  世界遺産等による「文化的景観」という概念の世界的な共通認識化により、従来とは異なる風景・景観も立ち現れている。 そこで、本フォーラムは、文化・信仰の対象となった風景の変容に着目し、 景観資源の立地特性や、文化や信仰へと発展した歴史的経緯から風景の価値を時空間的にとらえることで、 新しい風景を読み解く知見や研究のアプローチを議論する。 取り上げる事例は、熊野参詣道伊勢路における巡礼空間や奄美大島におけるノロ祭祀空間、 富士山北麓の宗教的文化資源、そして、明治神宮を事例にした近代神社をめぐる環境形成の構造転換や森と山の関係から見るランドスケープ、さらに、外海の石積集落景観の地域づくりや奥山と山とのかかわりからみる信仰の風景等、具体の研究事例を基に、議論を深化する。 本フォーラムにより、風景の文化・信仰からみた本質的価値を解明する研究の視点や視座、研究手法、 地域づくりへの応用展開について議論を深める。

【主な参加者氏名と役割】

発表者
・熊野参詣道伊勢路における巡礼空間の保護と継承 伊藤文彦(三重県埋蔵文化財センター)
・奄美大島のノロ祭祀にみる神宿る風景の継承 押田佳子(日本大学)
・富士山北麓の宗教的文化資源に対するランドスケープ的アプローチ 小林昭裕(専修大学)
・平取町におけるアイヌの聖地と風景変容 上田 裕文(北海道大学大学院)
・森のイメージと明治神宮内苑のランドスケープ 水内佑輔(東京大学)
・長崎市外海地区における世界文化遺産に係る地域づくりの実践と課題 渡辺 貴史(長崎大学)
・名もなき人の普くあった信仰の風景 端山信仰と山遊び 温井 亨 (東北公益文科大学 )

コメンテータ
  古谷 勝則(千葉大学大学院園芸学研究科 )
  伊藤 弘 (筑波大学芸術系)
  松島 肇  (北海道大学大学院農学研究院 )
  山本 清龍 (東京大学大学院農学生命科学研究科)
  上原 三知(信州大学農学部)
  惠谷 浩子(奈良文化財研究所)
  入江 彰昭(東京農業大学地域環境科学部)
  寺田 徹  (東京大学大学院新領域創成科学研究科)
  田中 伸彦(東海大学観光学部)
  村上 修一 (滋賀県立大学環境科学部)
  武田 重昭(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科)
  松井 孝子 (株式会社プレック研究所 )
  高瀬 唯(茨城大学農学部)
  小島 周作(東京農業大学大学院造園学専攻)
  町田 怜子 (東京農業大学地域環境科学部)

第1回 風景計画研究・事例報告会

基調講演

風景計画を俯瞰する

下村彰男 東京大学大学院農学生命研究科

風景・景観研究の展開を整理したうえで、風景・景観認識を考えると、情報と実像によって構成される風景に対して、かつては実像が中心であった。しかし近年では、情報の比重が高まってきている。風景は、身体的に特定の主体が先駆的に捉えてきたものが、コミュニティで共有され発信されて、時代を象徴する風景として社会的に獲得されてきた。そうした獲得の仕方も、実像が中心であった頃は視点と視対象の関係から獲得されていたが、近年では「特価情報」と「形成情報」が付与されて獲得されるようになってきている。今後、求められるのは風景を読み解く能力である「ランドスケープリテラシー」を磨くことと、獲得された風景を誰がどう管理していくのかという方法論の構築が課題である。

研究事例報告

「農業農村整備事業における景観配慮技術指針検討」における景観配慮の方向性をめぐり

小林昭裕 専修大学経済学部

農村景観に対する農水省の取り組みとして現在、「農村における景観配慮の技術マニュアル」に基づいた農業農村事業における景観配慮技術指針が検討されている。その中で、景観配慮の方向性として「除去・遮蔽」「修景・美化」「保全」「創造」の4原則が示されており、技術職員向けに優良事例が選出されている。しかし、地域のどういったコンテクストに着目して配慮すべきか、といった読み解き方については示されておらず、混乱をきたす恐れもある。そもそも全ての地域・事例に対して上記4原則に基づけばいいかどうかも、コンテクストの読み解きと関連付けて検討すべきではないか。

阿蘇くじゅう国立公園の変遷と阿蘇の震災復興に向けたランドスケープの役割

町田怜子 東京農業大学環境科学部造園科学科

阿蘇くじゅう国立公園は、畜産業の衰退と大規模な観光化という経験を経て、現在は草原景観保全と再生に向けて多様な主体が活動を展開している。熊本大地震による震災からの復興に向けて、①先人たちの暮らしを守る知恵や土地利用の工夫等の読み解きとその土地利用計画への反映、②草原や森林が有する生態系レジリエンスに関する実証データの収集と、二次草原や森林環境に関する景観マネジメントの構築、③草原景観の保全と再生に向けた取り組みを活かした地域防災力の向上、④地区内の観光計画策定と観光ツール開発およびその発信、⑤子供たちの草原学習による地域コミュニティの結束、が挙げられる。

リバプール市のグリーンインフラ戦略にみるニーズ特定方法と日本での応用に向けた試案

橋本慧 プレック研究所

英国リバプール市のグリーンインフラストラクチャー(GI)戦略において、GIに関する28種類のニーズは、小地域ごとの各種統計情報や土地利用などの数値的指標から特定されている。これらのニーズはGIの分布図上にが示され、設定された基準値との小地域ごとの比較から、行政による土地利用に関する介入や指導が行われている。日本においても各種統計情報のマップ化により、ニーズを特定することは可能である。ニーズは一律に決定するのではなく地域の実情に合わせて決定すべきである。その際、複数あるニーズの中でどれを優先させるかの判断基準の設定手法は課題といえる。

千葉県旭市の津波防災地を対象とした現地復興の実態に関する研究

荒木笙子 千葉大学大学院園芸学研究科

千葉県旭市・都市計画区域外の津波被災エリアにおいては、被災直後に土地利用規制が行われなかったため現地再建が進み、その後の復興計画で事後的に現地再建を容認していった。住民たちの被災による内陸等他地域への移動は殆ど見られず、多くが住み慣れた同一敷地や地区内に留まっていた。復興住宅が内陸側に建設されたこと、土地利用に関する具体的な方針が示されなかったことなどから、現地再建した住民と被災しなかった住民を含めた地域全体のコミュニティの維持・再生が困難になることが懸念される。熊本大地震においても、既存の都市形態を踏まえつつ安全安心な新たな生活空間の検討が必要であろう。

エコロジカルプランニングと国土庁の環境調査データを用いた東日本大震災の復興計画への参画

上原三知 信州大学農学部森林科学科

1980年に東北地方6県を対象に整備された1/50万スケールの環境条件図は日本独自のものであり、条件区分ごとに災害リスクや公益的機能の評価ランク得点表が整備されている。東日本大震災の被災地のうち数少ない成功モデルといえる福島県新地町において、前述の環境条件図を用いた1969年Ian McHargによって提唱されたエコロジカル・プランニング手法による評価結果と、住民や関係する専門家の丁寧な協議によって策定された復興計画による住宅移転地を比較すると、ほぼ同等の結果を導くことができた。前述の情報・評価及び手法は評価されるべきであり、改めてその活用は検討されるべきであろう。

コメンテーターからの意見